おりおりに 出逢った      「すきなもの」を      縦横無尽に ご紹介
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穴門 ひらく








<一つのメルヘン>


                 中原中也


秋の夜は、はるかの彼方に、

小石ばかりの、河原があって、

それに陽は、さらさらと

さらさらと射しているのでありました。



陽といっても、まるで珪石か何かのようで、

非常な個体の粉末のようで、

さればこそ、さらさらと

かすかな音を立ててもいるのでした。



さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、

淡い、それでいてくっきりとした

影を落としているのでした。



やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、

今迄流れてもいなかった川床に、水は

さらさらと、さらさらと流れているのでありました……









旅先から送った

「一つのメルヘン」が書かれたハガキ




受け取った友から届いたメールを読んで

彼女が言う通り

この詩が

今回の旅がどんなものだったのかを

うまく

あらわしているように

観じました




この詩を

好きだったことや

これが

中原中也のものであることを、

「歩みのリズム」

という

企画展の言葉に惹かれて訪ねた

彼の記念館で

ずいぶんと久しぶりに

思い出したのでした




家人が取った宿は

中也が結婚式を挙げた場所




彼が最期を迎えたのが

鎌倉であったことを

ここで初めて知りました





中 也

いい ことば です